10年目の木のキッチン

保ち続ける無垢の木のキッチンの美しさ

KitoBitoで初めて手がけた、私たちの思い入れのあるキッチンです。そのころ、私たちは無垢の木で家具の製作だけをしていました。キッチンは、システムキッチンという名前しか知らなかったのは、きっと私たちだけではなかったと思います。メーカー主体で大量生産されたキッチンに私たちの生活をあてはめてる、それが普通だと思っていました。そういった住宅のリフォーム前の解体工事を目にすることがあり、ボロボロになり取り外されたキッチンをみていると、私たちにできることは何だろうか、私たちだからこそできることが何かあるに違いないと思う気持ちが芽生えていったのでした。

忙しい毎日を送ると、夫婦のどちらもが料理が上手になり、二人で料理することが楽しく感じる。

KITOBITOキッチンが誕生するとき

そんな気持ちが芽生えていたころ、ちょうど新築物件の設計中だったUNITA設計室から階段箪笥を作ってみないかという声をかけていただきました。飾りではなく収納だけもはなく、日常的に2階に上がるために使う階段に、古くからある階段箪笥としての役目もきちんと果たすものとしての「階段箪笥」です。その打ち合わせをしているときに、キッチンはオーダーで作るという事を小耳にはさんだのでした。オーダーで?!それは、私たちにも、もしかするとチャレンジできることではないだろうか。すぐにも、施主のご夫婦に「丁寧なつくりで、無垢材で末永く使えるキッチンを作りたいんです!」「私たちにキッチンを作らせてください。」とお願いをしました。寛大な心とチャレンジ精神の持ち主である施主ご夫婦は、そんな私たちの願いを叶えてくれたのでした。同様にUNITAの横田さんも、「やってみられ~。」(岡山弁です)と、チャレンジさせてくれたのです。この出会いがあり、今の私たちがあると言っても過言ではありません。

住宅の設計は進行中で、キッチンの位置や周りの収納について、大まかに決まっていました。そのなかでアイランドキッチンとその周りの収納家具一式の設計と製作をまかせてくださりました。しかし、私たちはこのキッチン製作前に、キッチンについて勉強をする必要がありました。そうです。実際に、アイランドキッチンを製作することにしたのです。お客様にも設計士の方にも、そして私たち自身も安心するために、実際につくってみなければ、と一生懸命でした。同じ大きさのキッチンを作ってみたのです。シンクや水栓、コンロ(Mieleのラジエントヒーター)も入れてみました。現在は、私たちのところで実際に今でも使っています。そのキッチンを皆さんにみていただき、ある程度の(?)安心をしてもらうことができたのでした。

次は実際にお客様のキッチンに取り掛かりました。設計段階で、ナラ無垢材だけになると面白味に欠けるので、上の引き出し部分は、ぐるっとウォールナット材で変化を出そう、ということに。キッチンは家具とは違い、電気や水道も関係してくるため、一つ一つ勉強を重ねなければなりませんでした。今では経験値が増えたおかげで、当たり前のようになっている事ですが、設備関係の説明書に向かい、それを図面に当てはめ、設備屋さんに確認をする作業を何度も行う必要がありました。建築の図面の読みこなしも必要になってきます。今考えると、膨大な時間をこのキッチンやその周りの家具にかけさせてもらいました。自分が望んでいた仕事ができる充実感もあり、とにかく一生懸命だったのを覚えています。ドイツ製の食洗機Mieleとの出会いもこれが初めてでした。

約10年たったキッチンを撮影にあたり、じっくり見直すことになりました。経年変化で美しくなり、キッチンや収納家具を使い手によって育ててもらっている。と実感をしたのでした。使い始めがスタートでそこから美しく育っていく無垢の木のキッチンの良さについては、これは嘘ではないと感じることもできました。それと共に、こうして愛情をもって育ててくださっている使い手の家族にも感謝の気持ちを再確認したのです。大量生産では不可能な仕事をしているという、「誇りと自信」も感じました。

水栓は、今でも人気の高いGROHEのMINTAです。シンプルな形がいつの時代にもあっている強みでしょう。

ゴミ箱は、シンプルでまっすぐなのでこの無印商品を選ぶ方が多いです。 

庭師の福田義勝氏による庭とのコラボレーション。これが初めて物件となりました。ちなみに、コレボレーションとは私たちが勝手に言っているのでお間違いないように。私たちの尊敬する方です。

山桜の階段箪笥

久しぶりに撮影の際に再会した階段箪笥です。山桜の底力を見せてもらいました。無垢材の経年変化でこれほどまでに家具として生まれ変わった時に育ってくれている木に再会でき感激でした。丁寧に造ったこの階段箪笥が、家人により大切に使われていることが心底感じられました。「かなどこや」の井内さんに作ってもらった鉄の引手も、経年変化で深く味のあるものになっていました。

これが10年前の姿です。

ピカピカの時のキッチンの姿です。(一部、扉が入っていないところがありますが。)作りたての木の色を感じます。出来上がった時は、感無量だったことを思い出します。

階段箪笥は、最初はまだ深い色をしていません。写真で見ると、ナラの色と変わらなく見えますが、最初も実際の目で見ると違って見えます。しかし、10年たった姿ほどの色と艶はまだ見えていませんでした。床の色もまだ若く削りたてのような色ですね。こうして最初と現在の姿を比べてみると、家や家具をどんなに大切にされているかが感じられます。本当にありがたい事です。

経年変化を楽しんでくださり、ありがとうございます!

数年ぶりにお会いしたご夫婦は、以前と同じように穏やかで温かい笑顔のままでした。撮影にも少しだけ緊張したお顔で挑んでくださり、慣れてくると、すごく素敵な笑顔を見せてくださりました。あの時、この出会いがあったこと、そして何年かぶりにもかかわらず、ちょっと前にもお会いしたんじゃないかと思える会話ができること、そういった一つ一つの繋がりが、私たちがキッチン作りを楽しむ根底となっているのだと思います。

形として存在するキッチンという財産と、いつまでも大切にしたいご縁という見えない財産の、どちらもを得ることのできるこの仕事が、どれほど私たちにとって大切か再確認した時間でした。初心忘るべからずです。そしてこれからも新しい挑戦を恐れることなく前進していこうと心に強く思った時間でもありました。本当にありがとうございました。