古民家再生のキッチン

キッチンのご相談に来ていただいた際に、Takakoさんとご主人は私たちの建物の中で、幅はちょうどこの建物と同じくらいの大きさですよ。と何度も言われたことを今でも覚えています。ご主人の実家に建っている『薪小屋』と何度も言われていた古い納屋を、お住まいにされる計画を伺いました。「薪小屋は一部で、僕の部屋もあったんだけどね。」と笑いながら言われていたのですが、なかなかどんなところなのか想像ができずにいた私たちです。薪のために建物があるなんて想像がつきませんでした。昔は薪はとても重要な燃料だから濡れないための家が必要だったのかもしれません。

母屋の隣に建っていた「納屋」が新しい住まいへと生まれわりました。そこに収めた存在を主張しすぎないシンプルなキッチンです。

KITOBITOキッチンと古民家

その納屋を、古民家再生において著名な 神家昭雄建築研究室 にて生まれ変わらせる事を教えていただきました。納屋をいったいどんな住居にうまれかわらせるのか楽しみでワクワクしていたことを思い出します。キッチンに関して、他の建具などと違和感がないように、神家昭雄建築研究室の設計士の方と、何度も念入りに打ち合わせを重ねました。私たちのキッチンが、どの立ち位置で収まるべきかも考えさせられました。そして家の中から見える、年月を重ねた美しい石垣の話もうかがいました。そこで、私たちは、名脇役として存在感を主張しすぎず、そっとそこに寄り添ってくれるキッチンにすることを頭に置き、細かい収まりを考えていったのでした。

木の使い方のこだわり

無垢材の質感を感じ、かつ主張しすぎない。そのためには、いままでと違う方法を採用することにしました。無垢材は、木の反りをどうやって止めるかを念頭におき、製作をしています。今回はよく見えるところは反りを止めつつ、すっきりと見える方法を選びました。このシンクカウンターは、無垢の楢材の柾目というまっすぐな木の目を贅沢に使ったことで、主張しすぎずかつ質感も感じていただけたと思います。製作をして約3年たったころに撮影に伺ったのですが、同じ柾目でも、突板と言って木をスライスしたものとの質感はかなり違っていることが分かりました。キッチンの中でもリビングから見えるところをこの無垢材を使って大成功でした。

こちらの壁側の収納は、楢材の突板を使ったことにより、主張しすぎないすっきりとしたキッチンになることができました。収納もとてもシンプルにしています。

最初に伺ったころよりも3年後のこの撮影をしたこのとき、しっくりとTakakoさんとご家族の色になってきていて、心の中がホッと嬉しく暖かく感じました。使って育ててもらえるキッチンを作りたい思いで私たちの仕事は進んでいます。こうやって数年経た後に直接、目で見て、さわり、お話をうかうことで私たち自身が育ててもらっている現場を確認することができたのです。

シンク下の収納です。実は、ここは細かいところまで私たちのこだわりが詰まった場所です。主婦目線で設計をして、手仕事で職人が作ったこだわりの場所でもあります。キッチンは使いやすさもそうですが、手にふれたときに木と職人の温かみを感じてほしいのです。

この収納の隣に、食洗機をそのうち導入するかもということで、そのための場所や配管も最初に計画をしていましたが、すっかりここにあってよいものが収納されていました。食洗機は、あってよいモノですが、もしかするとなくても良いモノと考えることもできます。実際大切なお皿は、自分の手で大切に丁寧に洗ってあげたいんです。

いつもとても美味しいお菓子をつくられるTakakoさんは、ビルトインの200Vのオーブンを選択しました。100Vのオーブンと焼き上がりに差がでます。

しっかり組んだ存在感のあるテーブルとウエグナーのYチェアー

この家のためのテーブルには、北海道の目の細かくて重厚感のある楢材の1枚板を提案させていただきました。キッチンではおさえた存在感を、テーブルでは出していくデザインのものを提案しました。しっかりと組まれた脚の部分は、職人ならではの技法でつくられています。この空間には、この存在感のあるテーブルでなければならなかったように落ち着き払って存在していました。北欧の巨匠ハンス・ウエグナーの名作、Yチェアーとのバランスも楽しみの一つでした。こうしてみると、日本でも愛されるYチェアーの深い魅力に納得させられました。座り心地はいうまでもないです!

炎越しに見る石垣

そして、この家の主役の石垣です。まるで家の一部にはなっているようです。ガラス越しに見えるこの石垣は、ご主人のお父様自身で昔、丁寧に積み上げたられたそうです。月日が流れ苔が生え、美しさを感じさせるまでになっています。昔の人にとっては、あたりまえということが、現代においては美として感じられます。もしかすると、日常にあると特別な「美」としてとらえられることがなかったかもしれません。設計士の非日常からこの美しさを感じ、家の中から見る人が美しいと感じる設計に脱帽です。最後に…石垣が主役と勝手に私たちが言った言葉です。住まい手が主役…ですね。

ロフトへあがる階段からリビングを撮影。

Takakoさんお手製の米粉のしっとりと美味しいロールケーキ。午前中に焼いてくださっていました。紅茶と米粉のロールケーキをいただきながら、楽しい時間を過ごさせていただきました。しかも広い見識を持ったご主人には、子供の進学やこれからのことにもアドバイスまでしていただき、私たちにとってはとても貴重な時間をいただいたのでした。

大切にしていただき、ありがとうございます。