〆は料理本の読書会

キッチンの役割は多種多様。二つのキッチンに友が集い料理を共に楽しみ、そして故郷の気配を感じる空間のご紹介です。

キッチン側から目に映る二つのキッチン。絶妙な用と美を備えています。

ある日の受信メール。そこにはドキドキした内容が書かれていました。
『現在、自宅リフォームを計画しておりますが、ご相談させていただきたくご連絡させていただいた次第です。現在、建築家の阿部勤先生にお願いして設計をしてもらっています。阿部先生は、「中心のある家」というご自宅が有名で、「ペニンシュラキッチン」という概念を生み出した人と言われています。私は、人が集える先生のキッチンに憧れて先生に設計をお願いしました。
その先生の設計を岡山の職人さんに作ってもらうのもいいのではないかと思い、調べていたところ御社にたどり着いたというわけです。
故郷の香りを今の生活に感じたくてそのように考えました。阿部先生の設計のものを、御社で制作してもらい、東京に運んでもらう、というようなことは可能なのでしょうか。後略』
建築家の阿部勤先生といえば、自邸のキッチンを何度も雑誌や本で拝見することも多く、その方の設計したキッチンを肌で感じることができる、こんなチャンスはない!と思い、是非とも製作をさせてほしいと返事をいたしました。

二つのキッチンの役目を想像する

アイランドにはワイングラスを飾れる演出が。

図面を拝見すると、今までにないキッチンだったので、ここでの暮らしがどういった風になるのか想像ができませんでした。ですが、じっくり見ていくうちに、そこでおしゃべりをしながらも、テキパキと手を動かし、調理が始まり、お皿を並べる人、盛り付ける人、ワイングラスを並べる人、何人もの人が二つのキッチンで効率よく動き、食事の準備をする姿が目の前に広がり始めました。それはまるで、阿部先生の自邸のキッチンの写真を見たときのように。

初めての阿部先生との打ち合わせでは、無垢材に関してのKitoBitoの持つ知識と経験を参考にしてくださいながら、次々新しいアイディアが阿部先生の手から生み出されていくのを目の前にして驚きました。「頭の中に次々浮かんでくるんだ。」とまるで、溢れてくるものを止められないような鉛筆の動きなんです。

料理好きな住まい手と、料理好きな友人が集まり、一緒に食事を作り、食べる。最後は料理本の読書会。

何人もキッチンに入ると動線が悪くなったりしますが、2か所に分かれるので大勢でも料理が作れそうです。使い手の方だけでなく料理好きの友人も多く、時々集まり作り食べる会が開かれるそうです。忙しい日々を送る中で、仕事も頑張ろうと励みになる集まりですね。皆さんの満ち足りた笑顔が目に浮かんできます。食事の〆は、料理本の読書会らしいです。料理好きの方のための落ち着く空間となるに違いありません。

アイランドキッチンは、テーブルの高さです。小さなシンクとIHコンロ付き、そして三方から座れるようになっています。

実はKitoBitoでも時々友人を招いて、ジビエとワインの会を行うことがあります。カウンター側に招いた友人夫婦は座り、できたての食事を温かいうちに食べるスタイルです。テーブルに行くより距離が近く、常に4人の会話が弾み、料理を目で楽しめるので、このスタイルが楽しいんです。ただ、キッチンを「食事を作り・食べるところ」にしてしまうため、モノがあふれてしまうのです。今回の二つのキッチンスタイルだと、食べながら作っていても洗い物は、奥のキッチンに持っていき、すっきりした状態で、しかもみんなとの距離も近くて常に会話も楽しめる理想的なキッチンの在り方の一つだと感じました。

居心地がいいから、柴犬君もキッチンそばでお昼寝。

キッチンのカウンターテーブル

人造大理石と山桜の組み合わせ

シンクのフタ付

カウンターと同じ山桜のカッティングボードはぴったりサイズ

岡山県児島で染めた岡山ブルーのクッション

「故郷の香りを今の生活に感じたい」という願いをどうかなえるか。岡山の職人だけでなく他に何があるのか考えました。そこでCOZYコーナーのクッションに、岡山で作っている柔道着用の布を使い、ジーンズで有名な岡山県児島で、ブルーに染めてもらうことを提案。ここでも故郷の岡山のことを感じてもらえるでしょう。

岡山県奈義産の山桜

少量ですが岡山県北の奈義町の山桜材がありました。それを伝えると、どこかに何かの形で使えるといいですね、と言っていたのが、こういう形になりました。厚みのある材料をそのまま使えるようにと、阿部先生がデザインして下さり、特別の場所にすることができました。キッチンで使った山桜よりも、深く濃い色の奈義の山桜は、存在感があふれます。ここでも故郷を感じてもらえると思います。

料理がメインの奥のキッチンはコンパクトですが作業効率がよさそうです。ガスコンロを備えているので、ガンガン料理ができます。端から端まであるステンレスのタオル掛けとステンレスの水切り棚は、阿部先生のキッチンではよくお見掛けするもの。どちらも大変使い勝手が良いそうです。

阿部勤先生は、住まい手の想いを柔軟な発想で、作り上げていくすごい方でした。阿部勤先生と安立悦子さんの著書「暮らしを楽しむキッチンの作り方」ではこんな風にできていったキッチンの紹介がされています。私たちのバイブルとなりました。阿部先生並びに先生の設計事務所「ARTEC」のスタッフの方、そして工事期間中は工務店の方、大工さんや塗装屋さん、そして一週間ずっと付き合ってくれた江戸っ子の電気設備屋さんには、大変お世話になり感謝しています。そして何よりも、この仕事を依頼して下さった使い手のお客様との出会いにも大変感謝しています。ありがとうございました。

この手から湧き出てくるアイディア。大切な一枚です。